28才の初恋
 大事な事は聞きそびれてしまったが、それでも私は安心していた――。

 大樹クンが酔いつぶれてしまい、それでも宴会は続いて。
 宴会が終わるまでの間、大樹クンはずっと私のヒザ枕で寝ていたのだった。

 大樹クンがずっと自分のフトモモの上で寝ているという幸せと、つい先ほど、姑息な手段で大樹クンの本音を聞き出そうとしてしまった申し訳ないような気持ち。
 二つの気持ちが私の中で渦巻いていた。

――ごめんね。

 心の中で小さく大樹クンに謝る。

 目の前では、野球拳で小島が全員抜きを果たして、どういう流れになったのか第二回戦が始まっている。
 二回戦に突入しても、小島の破竹の勢いはまるで衰えることを知らず。
 小島が男子社員を撃破して、その度に周囲の他の男子社員が歓声を上げる。
 その騒ぎ声が響く毎に、私のフトモモで寝ている大樹クンが小さく「うう……」と短く呻き、その度に私が大樹クンの頬を撫でる。
 そんな繰り返しが続いていた。

――本当に、幸せな時間だ。
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