帰ってきたライオン

「というわけなの」

「っへー……そうなんです……ねー。っへー」

「なんかちょっとあれかな、やっぱ怒ってる?」

「そうみえますか?」

私の五年も音信不通にした彼氏(元)がね、上田さんの探し求めている彼だったんだよ。

ということを、羊君の写真を提示して話終わったところである。

所は仕事終わりのとあるカフェ。

しばし離れたところに行ってみたいカフェがあるということでいそいそと向かってきたわけだが、話の内容からいえば、若干ぴりぴりするところである。

キャラメルシナモンチョコチップマキアートwithホイップクリーム。

聞いただけで甘ったるくて胃もたれしそうな飲み物、しかもグランデサイズで上田さんは頼み、私はふつうのラテを頼んだ。

値ははるが噂通りのお味。

デートで使うにはもってこいな場所だが、仕事帰りで息抜きに来ている女子も多々いる。

あちらこちらから上司だか同僚だか後輩だかわからないがそういった方々のもんくがうっすらと聞こえてくる。

いつも思う。
外で職場の悪口やら愚痴は極力避けたほうがいい。というのは、壁に耳あり障子に目ありだ。

どこで誰が聞いているか分からないし、どこで誰がどう繋がるかなんて考えたって分からないが、無きにしもあらずだ。

なので、聞かれてまずいことは会社の近所はもちろん名前を出して言わない方がいい。

そして、どうしても言ってうさを晴らしたいならば、ニックネームで呼ぶべきだろう。

例えばうちの場合だったら上司の神谷さん、ニックネームはゴッドとか、例えば飲み会で絡んできたチーフ、名前は……あ、忘れた。ってことはそうだ、チーちゃんとか、チー太郎とかそんなかんじで作るべきだ。

と、前後左右から聞こえる聞いてはいけない話を聞き流しなからそんなことを思った。

上田さんはキャラメルマキアートの上のホイップクリームを掬って食べていて、さきほど話した羊君のことには一切触れてこない。

というか、まだ一言も発していない。

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