ベストフレンド
第11話

 マンションを購入し引越しも終えた数日後、愛美と祐輔が一緒に新築祝いを持ってくる。久しぶりに合う祐輔だが、相手の気持ちを知ってしまったためか、どこかよそよそしくなってしまう。高級マンションからの眺めにテンションの高い愛美とは裏腹に、司は祐輔とどう向き合うべきか考えどぎまぎしていた。
(マナから別れたことを聞いてるし、余計に気まずい。そもそもユウはまだ私のことを想っているのだろうか? マナが勝手にそう思っているだけという可能性もあるし……)
 コーヒーを入れながら司は今後の展開を考える。職業柄、どのようなタイプの男性にもきっちり対応出来るが、プライベートと職場とでは勝手が違い、相手が親友ともなるとまた話が変わってくる。ベランダから戻った祐輔はコーヒーを受け取り感謝の言葉を述べる。愛美はコーヒーそっちのけで部屋の探索を始めた。
「なんかすまんな、俺も大概だがマナのやつ無茶苦茶テンション高くて。迷惑掛けてないか?」
「まさか。マナの言動を迷惑だなんて思ったことは一度もない。親友だもの」
「そっか、相変わらず仲がいいんだな」
 愛美と祐輔の恋仲が無くなったことを暗に対比されているようで司は困る。
(普通に相槌を打つか、反対にマナとのことを聞くか、迷うわね……)
 黙っている訳にもいかず、司はストレートに思い切って言う。
「別れたらしいわね。なんで?」
 司の語気から怒っていると勘違いしたのか、祐輔は申し訳なさそうに頭を下げる。
「すまん、高校のときマナを大事にするって言っといてこのザマだ。反論する気もないよ」
「理由を聞いてるんだけど?」
 端的に問う司に祐輔はビクッとする。
「一言では言い表せない。お互いに嫌いになって選んだ道でもないしな。強いて言えば、二人の幸せのためってところか」
「欺瞞ね」
「何とでも言ってくれ。反論はしない」
 コーヒーを飲みながら自嘲気味に笑う祐輔を複雑な気持ちで見つめる。愛美はバスルームではしゃいでいるようで、シャワーが止まらないと叫んでいる。
「とにかく、マナを傷つけるようなことがあったら私はユウを許さないから。その点は覚えといて」
「分かってるよ。バツは相変わらずマナにべったりだな。少し妬ける」
 冗談とも本気とも取れる言葉を背に、司はバスルームに向かった――――


――翌日、いつものように同伴出勤すると、既に場内指名が入っており内心嬉しい悲鳴をあげる。同伴の相手としばらく時間を過ごした後、暇を貰い指名を受けた新規の相手の元に行く。しかし次の瞬間、テーブルの前に付き相手の顔を見てドキッとする。切れ長の目にスタイリッシュな体型をしており、ヘルプについているキャストも少し浮かれているのが分かる。
「御指名ありがとうございます。瑠美と申します」
「どうもユウです」
「少し二人にしてもらえるかしら?」
 ヘルプの二人が下がるのを確認すると、すかさず祐輔を睨みつける。
「どういうつもり? 私を困らせたいの?」
「いや、一度はドレスアップしたバツを見ておきたいなと、熟考した結果かな。想像を超えるくらい綺麗だわ」
「ユウに褒められても何とも思わない。これが昨日厳しい意見を言ったことに対する私への仕返しだとしたら性格疑う」
「そんなんじゃないって。純粋に会いに来たんだ」
「来るなら事前に連絡入れるのがマナーじゃないの?」
「入れたよ。返事はなかったけど」
(同伴後バックでメールチェックしたはず……、しまった! 営業用のサブ携帯しかチェックしてなかった。だからか……)
 祐輔が直ぐに分かるような嘘をついている可能性は低く、司は自分がチェックし忘れているであろうと結論づける。
「メールは私のチェックミスだと思う。けど、返事がなかったら普通来店をためらわない?」
「サプライズもいいかなと思ってな。実際ちょっと驚いたバツを見れて楽しかった」
 ニヤリとする祐輔を見て司はイラッとする。
「私を困らせるサプライズは止めて。こっちは遊びでやってるんじゃないんだから。これでも一桁ナンバーで忙しいの」
「一桁ナンバーってなんだよ?」
「キャバ初めて?」
「今日の来店が最初で最後になるだろうな」
「そう、私自身キャバで働いててなんだけど、来店はオススメしないわ。学生には敷居が高すぎるし。ナンバーは人気ランキングと置き換えられるわね。ナンバーワンが一番人気で一番稼いでるキャスト。キャストは嬢のことね。ナンバーワンだと月数百万はざらだから、基本的に皆それを目指してるわ」
「バツもか?」
「もちろん。やるからにはトップ目指さなきゃ嘘でしょ?」
「まあ、バツならナンバーワンになれるよ。性格良いし知性もあって、こんなにも綺麗だもんな」
 ストレートに褒められ司は顔を赤くする。普通の客から言われて何とも思わない言葉でも、祐輔から言われると意識してしまう。
(学生時代でもこんなセリフ言われたことないし、ユウって本気で私のことを……)
 緊張しながらも司は切り出す。
「それってもしかして、私を口説いてるつもり?」
「まさか。マナと別れたばかりですぐバツに行くなんて、そんな節操のない真似はできないよ。それに、マナとバツの関係を考えたら無理なのも容易に分かるからな」
 諦めたような口ぶりを聞き、司の心はズキッと痛む。
(高校時代はマナとの関係を重要視してたし、ユウと恋愛関係になるなんて考えもしなかった。親友でもありマナの恋人だったのもあるけど、ユウとはこれからも親友関係を維持したい。反面、特別な好意をずっと持たれていて、それを我慢して言わないなんて……)
 愛美との関係を大事にする司の立場を尊重し理解してくれる祐輔に、嬉しくなるも申し訳ない気持ちも沸き起こる。同時に、それだけ司を大事に想っていることの裏返しであり胸が熱くなる。
「ユウ」
「ん?」
「私は誰とも付き合うつもりがない。こんなこと職場で言っちゃダメなんだけど、私はナンバーワンになるまでひたすら努力し続けたい。私の夢はここでナンバーワンになることだから、恋愛にかまけている暇はないのよ」
「そっか、バツらしいな。応援してるよ」
「ありがとう。でも店にはもう来ないでね?」
「分かってるって。他の男と仲良くしているバツを見るのも何か嫌だしな」
「口説いてる?」
 冗談混じりの笑みを見せ、祐輔も笑う。
「ああ、口説いてるよ。返事は?」
「ユウさんお上手ですね。瑠美こんなふうに口説かれたことないから、ちょっと嬉しいです」
 満面の営業スマイルで返す司を見て、祐輔は噴き出して笑っていた。

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