ベストフレンド
第12話

 キャバ嬢になって丸四年が経ち、司は店内でも欠かせないレギュラーメンバーになっている。不動のナンバーワン彩奈(あやな)嬢は、司が入店してから一度もランクから陥落することもなく鎮座していた。ナンバーツーであり仲の良い環(たまき)嬢は司の師匠にあたる女性で、キャストのイロハを叩き込んでくれた先輩でもある。司の上位に君臨するこの二人の嬢は当然ながら、自分のすぐ下にいるナンバーも百戦練磨のツワモノ揃いで身が引き締まる。
 四月に入ると十八歳のニューフェイスが増え、一時的には若さと真新しさで客を持って行かれる。しかし、磨き上げられたテクニックやもてなしに敵うわけもなく、辞めて行く者も頻出し結局落ち着くところに落ち着いてしまう。

 バックでネイルの手入れをしながら、司はライバル達とオープン前のトークに花を咲かす。同伴がない場合はオープン後バックで待機し指名が入れば場内に赴く。指名が全く入らない嬢はずっとここに待機することになり、本人にしてみても厳しいものがある。
 待機でも一応時給は発生するが、基本的には同伴や指名料、ドリンク等で稼ぐのが嬢の本分である。待機がずっと続くようならそれは店にとってマイナスキャストということになり、当然ながら解雇対象となりうる。また、そのような状況になると上位ランクキャストのヘルプがメインになりがちで、自分自身へ付く顧客が作りにくくなり悪循環に陥りかねない。様々な思考や欲、妬み嫉みが渦巻くバックでは、表裏含めた駆け引きがキャスト内で繰り広げられていた。
「ちょっと萌(もえ)ちゃん聞いてよ。昨日アフターしたハゲなんだけどさ、アフターイコール肉体関係とか考えてて超ウザったいの。しかも金ちらつかせてさ、ヤリたいならデリか風呂行けって言いそうになったわ」
「あるある。萌もキャラがロリでバカっぽいからって、すぐヤレるとか思ってんの。キャラ作って演じてるだけなのにさ。こっちは現役法学部でアンタらより頭良いつーの」
「後さ、会社経営してるって言ってたリーマン居たっしょ? あれホントはペー社員だから。超ダセーし」
「ああ、あの人ね。でも金払い良いしカモでしょ。頭悪そうだし恋営で一発だって」
「まあね~、恋営掛けるほどの器じゃない気もするけど、キープしときたい財布よね。それに比べて、茜(あかね)が昨日相手してたイケメン良くね? しかも新顔でしょ?」
「確かに、顔は良かったわね。でもチャームばかりで酒頼まないし、うちらのドリンク断るし、金にならない。あれは力入れない方がいいわ。千夏(ちなつ)に付いてるペー社員の方が百倍マシ。イケメン見るならホスト行った方いい」
「あっ、ホストと言えば茜。ビリーヴの聖也君にハマってるっしょ? 相当入れ込んでるらしいじゃん。大丈夫?」
「私は元々ホスト遊びの為に嬢やってるから構わない。彼を一人前の男にするのが私の生き甲斐だから」
「出たよ。ホスト狂いの理論。ぜってぇポイ捨てされるから止めときって」
「いいのよ。私はそういうのを承知で、金で夢買ってるんだから」
 千夏達が繰り広げる客の悪口や赤裸々な恋愛トークを聞き流しながら司はネイルを仕上げる。バック内での会話は五割が客の悪口で五割が恋愛トークとなっており、司は内心辟易しながらそれらを聞いていた。
「ネイル綺麗ね」
 声のする方を向くと珍しく環が立っている。ナンバー一桁の上位キャストが同伴無しというのは稀と言える。
「おはようございます、環さん」
 ネイルを中断すると、司は椅子から立ち上がり挨拶をする。
「ああ、いいからネイル続けて」
「はい」
 椅子に座りネイルを仕上げていると環が話し掛ける。
「ネイルしながらで良いから聞いて。今日から、新人の娘が一人入るのは知ってるわよね」
「はい」
「貴女の下に付けようと思ってるんだけど、どうかしら?」
「私なんてまだまだひよっこです。人に教えるなんて恐れ多いですよ」
「四年でナンバースリー。誰も文句は言わないわよ。私も彩奈姉さんもね」
 司はためらいながらも承諾する。上位ランクの先輩から期待され任されようとしている案件を断るような真似はできない。
「分かりました。慎んでお受けします」
「助かるわ。もう来てるから引き合わせるわね。ちょっと待ってて」
 多少緊張するもののネイル道具一式をしまい待機する。しばらくすると綺麗にドレスアップした女性が環と一緒に歩いて来る。
「お待たせ。このお姉さんが貴女の教育係りの瑠美嬢。さあ挨拶して」
 環に促され女性は口を開く。
「はじめまして、今日からお世話になります。里奈(りな)と申します。宜しくお願いします」
 丁寧に頭を下げる愛美を見て、司は口を開けて驚いている。その姿に環は訝しがる。
「瑠美? どうかしたの?」
「あっ、いえ、こちらこそ宜しくね。里奈ちゃん」
「はい、ご指導宜しくお願いします」
 笑顔の愛美を司は複雑な表情で見つめていた。

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