詐欺師の恋
屋上を照らす夕陽が、眩しい。
「花音ー!!!」
少し強い風が吹く中。
自分の名前を呼ぶ声がする。
「憲子…」
陽に背を向けると、憲子がこっちに歩いてくる所だった。
「こんな寒い所で何やってんのよ!!!!また倒れるよ!?」
風に揺らされる髪を抑え、怒る憲子に、余裕のない笑みで返そうとするけど。
「倒れて、頭でも打って、全部記憶がなくなっちゃったらいいのに…そしたら…」
込み上げてくる涙に、言葉が途切れた。
「…花音………」
穏やかじゃない物言いに、憲子も言葉を失った。
来る日も来る日も。
ずっと、考えていた。
ぷつんと切れた中堀さんとの繋がりは。
全部、嘘だったのかなって。
その中の、ひとつも。
本当のものはなかったのかな、って。