詐欺師の恋
「ところで、酒、出してよ。俺カウンターでずっと待ってんだけどー。」



「お前って奴は…」



燈真が呆れたように首を振る。



「はやくー。かわいこちゃんが居なくなる」



「…わかったから、先に行ってろ。」



燈真はしっしっと崇を追いやり、煙を吐いた。


崇は何やらぶつくさと不服そうに呟きながらも、元居た場所へと戻って行く。



「お、きたな。」



カンカン、と階段を下りてくる音に、燈真は視線だけ上げる。



来春、卒業する少年は、制服を脱げば大人と変わらない。


普通であれば多少あどけなさが残っていてもおかしくはないが、彼の育ちがそれを払拭してしまっていた。



容姿は端麗で、長身。


クラブでも、彼に言い寄る女は腐る程居る。



「…使えそうなんだよな」



小さく呟いてから、燈真は煙草を床に捨てて、踏み潰す。




「空生、どうした?浮かない顔してるね?」



降りてきた空生に声を掛けると、彼は「別に」とだけ答えた。
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