詐欺師の恋

『―俺、もう辞めるわ』




この街を離れると告げに来た空生は、ルナのバーカウンターでそう言った。




最初、何のことだかわからなかった。




『なんだよ、改まって。何を辞めんだよ?』




案の定ほろ酔いの崇が、からかうように訊ねると。





『本業、辞める』





いやにはっきりとした声で、空生が言い切った。





『―は?何言ってんの?正気?』





自分でもかなり低い声が出ていたと思う。


それでも顔に出さないようには努めた。





しかし、空生はそれには答えずに、目の前のグラスに口を付けた。






『花音ちゃんのこと、好きになった?付き合うの?』





何とか平静を装って訊くと、空生の隣に座っている崇の顔が、判り易く引き攣る。





『……そんなんじゃない。あいつとはもう会わない。』



『えぇ!じゃあもうクラブにこないのかよぉ…』




崇と違って、金色の髪の下から覗く表情は何を考えているのかさっぱり掴めない。


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