詐欺師の恋
『…そんなこと、一言も言ってなかっただろ。突然、どうしたんだよ。』
『そうだよ、どうしたんだよ?まぁ、俺は止めねぇけどさ。』
自分の言葉と崇のそれとはかなりの温度差がある。
崇はこの件には関わってない。
でも、俺は違う。
ここまで育ててやったのに―。
今更何を言い出すんだ。
『別に。特に理由はないよ。もう、女の機嫌取るのに疲れただけ。元々いつかはやめようと思ってたし。』
しれっとした顔でグラスに手をつけようとする空生の胸倉を、思わずカウンター越しに、奥から掴んだ。
『おい、やめろって、燈真!!』
崇の仲裁は耳に入ってるし、客の目につく場所だ。
俺だってそれは理解している。
『お前、そんなんで終わると思ってんのかよ?』
『…放せよ』
『母親のこと許したのか?』
『カンケーないね。』
おかしい。
空生の目はあの時と変わっていないのに。