詐欺師の恋
「中堀さんっ!!!!」





思わず名前を呼んだ瞬間。



これ以上動けないと思っていた足が、嘘みたいに自然に跳ねて。



気がつけば、駆け出していた。




さっき上ってきたのとは反対の階段に、足を掛け―











「っとに、しぶとい女だね。」







突然、耳の後ろから聞こえた声に。







「え―?」






聞き覚えがある、と思った刹那。





トン。






押された、背中。






グラリ、傾く、視界。



バランスを、崩した、身体。







そして。









「花音!!!!」









死ぬほど聞きたかった、大好きな、声。




そのあと、は。



全部、真っ白になって。





なんにも、見えない。






ねぇ、どうして。





そんなに大きな声で。


そんなに苦しそうな声で。






私の名前を呼ぶの?













あと少しで。





私、貴方に会えるのに。




やっと、会えるのに。
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