Baby boo!


「楠原さん、お名前言えますか?」

「……くすはら、にいな」

患者の女性は、茶髪の肩上位のショートボブで、21才と送られたが、幼い顔立ちをしていて10代にも見えた。

まだぐったりしているようだが、意識はしっかりしている。
外来のベッドへ移送し、看護師に指示を出した。


「ルート取って、点滴だーっと落として帰らせて」

カルテに適当に2~3行書いて、少しでも寝ようと仮眠室へ戻るべく救急外来を後にする。

すると、突然看護師の悲鳴が上がった。

「きゃーっ!」

「どうしたっ?」

部屋の外の廊下まで響き渡った悲鳴に、何事かと急いで駆けつける。


「ね、ねずみが……っ」

そう言って看護師が指差した先には、なんとねずみがいた。
しかしよく見てみると、ハムスターのようでちょこんと患者のお腹の上に立っていた。

……しかし、なんでこんなところに。

「突然、患者さんのポケットから飛び出して来たんです……っ」


……呆れたもんだ。
なんでハムスターなんかポケットに入れてたんだか。

「楠原さんのペットですか?」

看護師がそう本人に聞くと、こくんと頷きながら、はいと返事があった。

「なんでポケットに入れてたんでしょう?」

続けざまに聞くと、閉眼したまま呟くように答えた。

「……お店に入れなかったから」

なるほど、ハムスターのケージなんて飲食店に持っていたら断られる。
だからってポケットに入れることなんてないだろうに。

一体どんな状況でこんなことになるんだ。

とりあえず院内には持ち込めないため、受付で預かってもらうことに。

ひと騒動あったが一応、一旦落着して、今度こそ仮眠室へと欠伸をしながら向かう。




日付が変わった頃、ピッチに外来看護師から連絡が入った。


『あの、先ほど入院された楠原さんなんですが……』

「え、まだ帰ってなかったの?」

『はい、あの意識はだいぶはっきりしているんですが、まだ完全に酔いが覚めていないようで、帰れそうになくて……』

「今見に行く」

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