sEcrEt lovEr
「え…!」

レンズを通して見た景色に思わず、声が出る。

「Oh my…」
(嘘だろ…)

そこに映り込んだのは紛れもなくあの時のポスターだった。

幸い、下を向いた彼の顔はよく分からないが見る人が見れば… な仕上がりだ。

こんなんならモデルは誰でも良かったんじゃないかとも思ったが、

それでもきっと彼女はあのポスターを、自分が参加した作品を好きだと言うだろう。

あの日も発作が起きるギリギリまで撮影に臨んでいた。

命懸けのそれを彼女は“もしもの時の保証”と呼んでいたが、決してそれだけじゃない。

あの子のことだ、きっと自分の為 そして自分の家族の為だったに違いない。

ハンディがある彼女には 自分は無力だと思い込んでいる節があるが、気づかぬ内に誰かの背中を押していること、

マイナスな気持ちを払拭し希望を与えていることに本人は気がついてはいない。

…そして この時の彼も気がついてはいない、頭の中はすっかり彼女のことで埋め尽くされていることに。

誰かを守らなくてはいけないという使命感以上に、素の自分でいられる心地良さを感じるのは

彼にとって初めてのことだったのかもしれない。

過去から用意されたシナリオはあまりに残酷なもので 時に彼を傷つけ 追い込んだりもしたが、

強さや優しさを培ったあの時の少年に迷いはもう見えなかった。

「行くか…!」

朝日を背に受けながら、青年医師は屋上を後にした。
< 216 / 233 >

この作品をシェア

pagetop