花椿
花精
「ごめんください」

黒い外套に身を包んだ男は店に入り、掛軸に目をとめた。


梅の木が、ただ1本描かれている。


「こちらの掛軸を見てらした?それは『梅に鶯の図』」


店の主の孫、漣は暖簾を上げながら男に声をかけた。


「梅に鶯?」


聞き返す。


「ええ、外の世界が恋しくて飛びたったようです。さる高僧の手によるものだそうですが」


漣は掛軸をみつめながら淡々と話す。


男は憮然として、「ご主人は?」と尋ねた。


「祖父は買い付けに出ております。4、5日留守に、僕が店番ですが」


「留守か……」


男はきびすを返し、店を出ようとしたが、「お待ちください」と漣が男を呼び止める。


「もし、貴方は祖父に買ってほしい物があっていらしたのでしょう?」


「あ……ああ」


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