Love Butterfly
 南港についたら、まだ明るかったけど、もう七時を過ぎていた。ふと、思い出した。今日はパパが帰ってる日やった。でも、もうそんなん、どうでもよかった。パパに怒られても、お姉ちゃんに叩かれても、別にもう、どうでもいい。うちは、ここにいたい。慎一くんとかと、ずっと、ここにいたい。うちは、自由になってん。自由に、うちは、走るねん。
 うちらは、広いトラックターミナルにバイクを停めて、バイクの技のお披露目会が始まった。失敗する子もいて、派手にこけて、血が出たりしても、いたーって笑うだけで、みんなも、アホやなーって笑って、うちは、ちょっと後ろの方に座って、笑って見てたら、隣に、慎一くんが座った。
「みんな、アホやろ」
「ううん、めっちゃ、おもろい」
慎一くんは、うちのその言葉にちょっと笑って、ポケットからタバコを出して、火をつけて、ふーって、煙をはいた。
「おいしいん?」
「タバコ? ようわからん。吸うか?」
うちはびっくりしたけど、でも、みんな、タバコ吸うてるし、うちだけ吸わへんのも、なんかカッコ悪いし、迷ってたら、慎一くんは笑って、こんなもん、吸わへんか! って笑ったから、なんか、うちは、ちょっとムカっとして、
「吸う」って、慎一くんの出したタバコを取った。
「冗談や、無理すんなって」
「無理なんかしてない。タバコくらい、うちも吸えるもん」
 当たり前やけど、タバコなんか吸うたことないし、触るのも初めてやし、パパもママも吸わへんから、実物を見るのも初めてで、でも、緊張してることバレたら悔しいから、みんながしてるみたいに、口にくわえて、火をつけようとした。
「京子、それ、反対や」
「ちょ、ちょっと、まちごうただけやもん!」
ほんまは、ライターを使うのも初めてやったけど、これは、カチって、押すだけやったから、すぐ火が出たけど、なかなか、タバコには、みんなみたいに火がつかへん。
「吸いながら、つけるんやで」
「わかってる」
吸いながら……吸いながら……うちは、もう失敗したら恥ずかしいから、思いっきり吸い込んで、火をつけたら、思いっきり、苦くて、臭い煙が、体の中に入ってきて、ゴホゴホ咳が出てしまった。
「そんなおもいっきり吸うたら……大丈夫か?」
「大丈夫」
はっきり言って、もうこんなおいしくないもの、いらんかったけど、でも、ここでやめたらまたみんなにバカにされそうやし、それに、もう、仲間に入れてもらわれへんかもしれへんし、だからうちは、もう一回、思いっきり、吸い込んでみたけど……
「……なんか、きもちわるい……」
「ほら、いわんこっちゃない。もう、やめ」
うちのタバコは慎一くんに取り上げられて、うちは頭がクラクラして、胸がムカムカして、めっちゃカッコ悪くて、泣きそうになってた。
「こんなもん、吸わんでええ」
「だって、みんな吸うてるやん」
「別にみんな、好きで吸うてるわけちゃう。うまいおもてるヤツなんか、おらん」
「じゃあ、なんで吸うん?」
「なんでやろなあ。たぶん、今の京子と同じ理由や」
 慎一くんは、なんとなく、ちょっと悲しそうな顔をした。彼はお姉ちゃんと同い年やのに、なんか、すごい大人っぽくて、優しくて、うちは、たぶん、慎一くんのことが、好きになってる。
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