Love Butterfly
 夕方前まで、みんなでそのお店にいて、しばらくしたら、派手な服の女の子が何人か来て、でも、うちのこと、全然邪魔にしなくて、女の子たちは、うちのこと、京ちゃんって、呼んでくれた。
「そろそろ、いこか」
慎一くんがそう言うと、みんなでぞろぞろ、お店から出た。
「京子は、俺の後ろや」
バイクは、前のスクーターじゃなくて、もっとおっきい、真っ黒のバイクやった。
「前のんと、違う」
「この前は、修理しとってん」
慎一くんは、自分のヘルメットをうちに貸してくれて、つかまっとかな、落ちるで、って笑って、バイクにまたがった。その、バイクに乗った姿は、めっちゃかっこよくって、うちはまた、心臓がドキドキし始めて、恐る恐る、後ろに乗ったけど、前みたいに、ギュってできずにいたら、慎一くんが、うちの手を引っ張って、うちは、慎一くんの背中に、ぐいって押し付けられた。
「こうしとかな、ケガするで」
「うん」
 うちの心臓はドキドキして、爆発するかと思うくらい、ドキドキして、でも、スクーターと違って、音も大きくて、エンジンが響いて、顔に当たる風も強くて、いつのまにか、うちは必死で、慎一くんの背中にしがみついてた。
 しばらくして、大きな道路に出たら、すごい渋滞で、車はみんな止まってたけど、うちらのバイクは、車の隙間をすり抜けるように、走っていく。ぐねぐね、バイクが動くたびに、うちは、足が道路につきそうで、ちょっと怖かったけど、でも、だんだん楽しくなって、違うバイクの後ろに乗った女の子が、京ちゃん! って手を振ってくれたから、うちも手を振ろうと思ったけど、やっぱり手を離すのは怖かったから、笑うのが精一杯やった。
 渋滞を抜けたら、慎一くんが、ブンブンってエンジンを鳴らして、そしたら、他のバイクの子らも、大きな音でエンジンを鳴らして、
「京子、行くで!」
って、ガクンって体が一瞬浮いたみたいになって、うちはいつの間にか、風よりも早く、走っていた。風は生ぬるくて、排気ガスの臭いがくさくて、エンジンの音がうるさくて、でもうちは、なんか、初めて、「自由」になれた気がした。
「怖ないか!」
風に乗って、慎一くんの声が聞こえる。
「怖ない!」
「そうか! バイク、おもろいやろ!」
「うん、めっちゃ、おもろい!」
おもろい、なんて言葉、今まで使った事なかったけど、その時は、ほんまに、おもろ、かった。

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