西森さんと瑠愛くん。(仮)
 
(………大変ね)

 背中越しにそれを伺いながら思う。


 彼女たちは、永峯君に起きてきた様々な事を知っているのだろうか。


 たくさんの苦難の上で、彼が笑っていることを。

 たくさんの傷を抱えて、彼が生きていることを。


 母親のために、不本意な人気に耐えていることを。


 本当は人目を忍んで暮らしたいと言った横顔を思い出す。

 哀しい、哀しい横顔だった。


 そうだ。本当の彼はこんな風でない。

 本当の彼は、常に怯え、小さな身体で真に愛される事をジッと待つような、牙すら持たぬチワワだ。

 無用な争いを避けたくて、みんなに愛されようとキラキラはしゃいでいるゴールデンレトリバーは・・・。


(…………嫌いよ)

 何も知らないで群がる女の子たちと、レトリバーの王子様に何だか無性に腹が立って、気づくと体が動いていた。
 
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