恋愛の神様

     草賀零於

※※※reo kusaga※※※




呪ってやる、じゃなくて、呪われろ……って、

誰に?



いつも通り突拍子もない野山小鳥の捨て台詞にぷっと吹き出し、俺は歩き出した。

午後の就業までにはまだ時間がある。

それでなくとも今、外回りから帰ってきたばっかりだ。
少しぐらい食い込んだって誰も咎めない。

自分の課へ戻る前に俺は資料庫へ向かった。

殆どの資料はパソコンへ入っているが、保管が義務付けられている物、それに準じた証書などが整然と収まっている部屋だ。
主に営業課が取引の改定や新規で使っているが、先の通り常には手元のパソコンで用足りるので普段はほとんど人の出入りがない。
同じ理由で会社の上層の一部が利用するが、やはり足を延ばすことは少ない上に、秘書に任せるのが通例だ。

書類の日焼けを防ぐためにブラインドは常に引きっぱなし。
古い紙と少し埃っぽい香りが、意外と俺はキライじゃない。


常には真っ暗な部屋に、今日に至ってはぼんやりとした明かりが点いていて、一人の女が書類の整理に勤しんでいた。
俺を見つけて「お疲れ様」と目元を緩める。


近づいた俺は女の腰を引き寄せ唇を塞いだ。

角度を変えて何度も押しあて、少しずつ中を浸食していく。
僅かに開く隙間から濡れた声が零れる。
その声ごと貪るように舌を絡め取り、きつく吸い上げた。

震える体を支えてやりながら、首筋に唇を移す。

すべらかな肌を堪能しながら、ブラウスを乱し胸元へ指を差し込む。


「ん、ダメ……零於…」


思わぬ制止に、俺は口を尖らせて顔を上げた。

彼女は困った顔で呟いた。


「…午後一で資料を持っていかなきゃならないの。」


誰にとは言わなかった。

だがそれを推測するのは容易く、腹に黒い渦が湧く。
悪戯心も完全に失せた。



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