恋愛の神様
男は扉を見詰め、腕時計を見て、舌打ちして身体を起こしました。

状況が呑み込めずぼんやりしていたワタクシの服を手早く直して、米神に軽く唇を押しつけました。


「んじゃ、ま、これも何かの縁って事で健闘くらいは祈ってやるぜ。」


優しいんだか優しくないんだか分からないセリフと一緒にワタクシの手に眼鏡が返されました。

慌てて眼鏡を掛けましたが扉を出て行く後ろ姿がチラリと確認できただけで顔はついに確認に至りませんでした。

男と入れ違いに別の男が入ってきました。
顔は分かりませんが、スーツの色で分別はつきます。


「はーヨカッタ、見つかって。気分悪くなったって聞いたけど……確かに顔が赤いけど本当に大丈夫かい?」


そのセリフで先ほどの男がどんな言い訳を吐いたのかは大体察しました。
多分、ワタクシが気分悪くなって廊下にでも蹲っていたから、とりあえずこの部屋で介抱していたとか様子を見ていたとか、そんなところでしょう。

本当の事を言えるはずもなく、ワタクシは頷きました。

胸は未だにドキドキと煩い鼓動を高鳴らせておりました。


なんというアクシデント!

ここはセクハラ……いいえ、強姦魔に怒りと嫌悪を募らせるべきでしょうが、そんなことは露にも思いませんでした。


たった数分。
ワタクシは与えられた快楽にすっかり虜にされてしまったのです。


その後、人事の方に引き摺られていった面接でワタクシは体調不良もすっかり吹き飛ばし、熱弁を奮いました。

あまり良く覚えておりませんが『この会社で何が何でもワタクシの将来を掴む!』といった主旨の事を灼熱の太陽より熱く語ったようです。


ええ。
ワタクシは是が非でもこの会社に入らなくてはいけません。

そしてあの快楽をワタクシに教えてしまったあの指の主を探し出すのです。

その暁にはあの快楽の続きを是非教えて頂かねば!


その熱意が通じたのかワタクシは入社試験をパスし、晴れてこの会社に就職の運びとなりました。




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