恋愛の神様
恙無く挨拶をして、部屋を出る。

私が給湯室から戻ると、秘書課のメンバーがひそひそと話をしているのが耳に入ってきた。


「単なるデマ課と思ってたけど、あの噂ってホントなのー?」

「二之宮専務、阿藤の社長に気に入られて婿養子にってヤツ?既に婚約したとか聞いたわよ、私。」

「ってか、犬飼さんはどーしたの?専務ともう長いんでしょ。」

「でもさー、所詮この会社って夫人一派が幅利かせてるし、妾の子じゃいくら子息といえども窮屈じゃない。その点、社長令嬢と結婚すれば簡単に一国の主よ。」


…………なに?


今聞いた話に足元がぐらつくのが分かった。

阿藤建設の令嬢って、今の子?

彼女と虎徹くんが………婚約?

そんな話聞いてないわよ。


私が戻ったのに気付いてみんながはっと顔色を変える。

私は誰にも気づかれないように強く奥歯を噛み締め、そっと微笑を浮かべて見せた。


「さぁ、仕事しちゃいましょう。」


何事もなかったようにデスクに戻って仕事を再開する私にみんなは小さく視線を交わし合う。


「やっぱ、デマなんじゃ……」

「さぁ……既に割り切った後かもよ」


悪意のない囁きが私を苛んだ。


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