恋愛の神様

最初は支配人の軍配に些か面食らったものの、意外と簡単に受け入れていた。
負けず嫌いの俺がな。

なんだかんだ言いながら、俺だって野山の能力は認めてんだ。

だから、俺が微妙に苛立ってるのはその事じゃなくて、だ。


「チィちゃん、ダイジョーブか？」


俺でさえ、部長夫婦のイチャツキっぷりにイラッとしたんだ。

痛くねぇわけ、ないだろ。

ちょっと心配になって覗きこむと野山はほんの少し瞳を揺るがし、すぐさま気丈に笑った。


「大丈夫、デス！」


俺の危惧を払拭するようににへっと笑う。


「ワタクシはダイジョーブですよ。………草賀さんが、彷徨っていた恋心を探して解き放ってくれましたもの。」


それに……と野山は続ける。


「ワタクシ支配人の事好きです。すてきな女性だと憧れます。部長とお似合いだと心から思いますし、仲良くして欲しいと思うんです。何と言ってもワタクシ、彼等の愛娘らしいですし？」

最後は茶化すようにいって、

―――その笑顔にジンとする。

分かってる。

野山はちゃんと割り切ろうとしている。

だけどさ、人間の感情なんてスイッチみたいに簡単に切り替わんねぇんだよ。

それなのにオマエは笑うんだな。

空元気とも思えないちゃんとした笑顔で。


「く、草賀さん……！？」

気付いた時には思わず口を重ねていて、野山が焦ったような声を上げて辺りを見回す。