恋愛の神様

思わぬ有名人との遭遇に、ミーハー根性丸出しではしゃぐ前に、欄干を飛び降りた男にいきなり抱きつかれました。


「ひ!?ぎゃぁぁぁぁ、何するんですか!!放してくださいっ!」

「ピー!!ようやく見つかった!!」


男は感極まった様子で力任せにワタクシを締めあげます。グルジイ……!


「ワタクシ、ピーじゃなくて、チィ!…じゃなく、ひよ子……でもなく、ですよっ!」

「ピー!!ピー!!ピー!!」


連呼するこの人こそまるで鳥のようです。

セクハラ有名人に慌てふためいていると、悲痛な音を上げて路上にバンが急停車しました。


「シロッ!!」


罵声と一緒に女の子が車から飛び降りてきました。

つややかな黒髪の美人さんですが、歳は高校生くらいでしょうか。
整った顔立ちには初々しさが残っております。

シロとは犬を呼ばわったものではなく、ワタクシを抱き潰すセクハラアーティストに向けて放ったもののようです。


「随分探したわよ。いなくなったと思ったらこんなところで……」


言い差して、鬱陶しそうな溜息を零しました。

ハクトさんはまるで聞いちゃおらず、ピーピー言いながらワタクシをぎゅうぎゅう抱き潰しています。

少女はチラリとワタクシに視線を向けました。


「…仕方ないわ。沢蟹さん」

「ハイお嬢様。」


少女の呼びかけに、慇懃に言って車から屈強な男がぬっと現われました。
映画などで見る大統領御用達のSPみたいな人です。

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