恋愛の神様

がっくりしていたワタクシはその時タツキさんが引き続き携帯を操作していたことなどまるで気にも留めておりませんでした。


「はい。返すわ」


そう言って、胸ポケットに携帯を戻され、ようやくワタクシは顔を上げました。

じとっと睨むワタクシに、まだなんか文句あんの?と言いたげにお嬢様は顎を聳やかします。


「アナタがどう言おうとも決定を覆さないわよ。……ともかくアナタ、シロに拾われてヨカッタと思いなさいよ。あのままじゃ風邪確実よ。」


言われてハッとしました。

……そうでした。
ワタクシ現在、とんだ薄着です。
しかもバック一つ持っていません。

そうなった理由は会社を飛び出したからで。

草賀さんから―――恋から逃げ出したからです。

ワタクシはタツキさんをそっと伺いました。

傲慢で冷然としていて、とても優しさとはかけ離れた態度ですが、実はとっても情に厚い娘なのかもしれません。
しかも頭の回転が速くて、細やかな気配りができるようです。

ワタクシに何かあった事をさりげに察していながら、突っ込んで聞く事もなく、成り行きとはいえ保護して下さったみたいです。

タツキさんは視線を窓の外に投げてそっけなく言いました。


「何があったかは知らないし、興味もないけど。落ちつくまで『アナタの人生』から距離を置いてもいいんじゃないの?」


草賀さんから距離を置く―――。

それがイイ事か悪いことか判断する術はありませんが、今の私にはアリガタイ状況だと思います。

とても今は冷静に顔を見る自信がございませんもの。



応えを出す事から逃げるのではありません。

ただ少し……


落ちつくだけの時間を取ってもいいですよね?



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