恋愛の神様

「総務課の佐藤さん!いや、気になってたんだけど、切欠なくて参っててさー。」


野山さんのおかげだよ、と彼は片平の罪悪感もなくワタクシの手を握り上下に振りまくります。

ぽかんと開いた口から魂が抜けかかったワタクシは抜け殻状態です。


「………あの。……その映画のペアチケットですが、何故だかここに……」

「ええ!!くれんの!?アリガトウ!!」

「……ええ。よろしければ…」


今更、こんなベタベタな恋愛映画のチケットなどワタクシには無用の長物。

ワタクシからチケットを受け取った山田は(←既に君ナシ)感激に目を潤ませ打ち震えました。


「野山さんってホントイイ奴だよなー。そこまで俺と佐藤さんの事考えてくれるなんて!」


ワタクシは山田とサトウの幸せなど一秒も考えたことはございませんよ。

内心突っ込みつつ乾いた笑いでやり過ごします。

この不幸のどん底で評価を落とすような上塗りはゴメンです。

もはやとっとと消えろ、用無しがっ!というワタクシの思いを察したわけではないでしょうが、山田は思わぬ釣果を手にホクホクした顔で部所へ戻って行きました。






はぁぁああああああ。


ワタクシは深海よりも深い溜息を吐いて渡り廊下の手すりに突っ伏しました。

負けました。
完敗です。
惨敗に乾杯―――なんて笑えません。

煙草も吸わないワタクシが、喫煙室に屯する山田の元へ足繁く通ったのは一体何のためだったのでしょう。

共通の話題を探すのは手間がかかります。
というかほとんど趣味・嗜好性に共通点が見いだせません。
なので手っ取り早く、巷で人気の恋愛映画を介することを目論みました。

さあ、そこからが本領発揮です。

暇を見つけてはせっせとネット検索でその映画についてリサーチ。
原作になった小説やらその作者の生い立ちまで、にわかファンと看破されない程に造詣を深めました。



よもや狩人と化した乙女に死角ナシ!

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