恋愛の神様

これからハクトさんは本番間近に迫ったツアーの練習に行くそうで、ついでにタツキさんを拾いに来たそうです。


「で?何があったのよ。」


相変わらずハクトさんにぬいぐるみのように抱き潰されているワタクシにタツキさんが訪ねてきます。

ワタクシはぎゅっと拳を握り、覚悟を決めて言いました。

妊娠したかもしれない、と。

ペットボトルのお茶を煽ろうとしていたタツキさん、手からペットボトルが落ちました。

さすがにド肝を抜かれたようです。

慌ててペットボトルを拾い上げ、深呼吸した後、で?というように先を促しました。

その剛毅な双眸に鼓舞されるようにワタクシは洗いざらい話ました。

草賀さんとの付き合いや関係や現状。
そして、産むのも堕ろすのも怖くて堪らないというワタクシの正直な気持ちなどなど……。


「沢蟹さん、車を停めて。」


全てを聞き終えタツキさんはいきなりそう告げました。

車が路肩に停まるや否や、外に放り出されたのはワタクシではなくハクトさんで。


ええ?
な、何故???

驚くワタクシを無視して、降ろされた事を別段不思議と思ってなさそうなハクトさんにタツキさんが窓から言いつけます。


「場所は分かってるわよね。アンタも子供じゃないんだからちゃんと行くのよ!」

「んー。」


ヒラヒラ手を振るハクトさんを置き去りに車は再び走り出します。


「い、いいんですか?てか、ハクトさんを送るのが主旨の車でハクトさんを下ろして一体どこへ……?」


戸惑う私をタツキさんが鋭く睨みます。


ひっ………こわひ

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