恋愛の神様
「産みなさい。」
唐突な命令に、竦み上がっていたワタクシはきょとんとしました。
意味を理解した途端、ワタクシはぐしゃっと顔を歪ませました。
「た…タツキさん。今のワタクシの説明をちゃんと聞いていらっしゃいましたか?産むような現状ではなくてですね、…て、まだ堕ろすと決めたわけでもないんですが…」
しどろもどろの言い訳をタツキさんは「黙らっしゃい」の一言で片づけました。
「いらないなんて言わせないわ。いいわよ。アンタのかわりに私がいくらでも愛してやるんだから!!実の親じゃなくても、生まれてきた事を後悔なんてさせないくらい私が愛してあげるわ!!生まれなければヨカッタなんて言わせない!」
その言葉はズシンとワタクシの胸を突きました。
以前、社長とタツキさんのやり取りが気になって、後日ハクトさんに聞きました。
タツキさんが親に「必要のない子」と思われていた事を。
それはタツキさんの誤解らしいですが、タツキさんが傷ついた事には変わりありません。
そして何よりハクトさん。
母親は育児放棄と虐待の挙句彼を残して自殺してしまったという壮絶なまでの生い立ち。
幸か不幸か彼は幼少の記憶を失ったようですが、それでもその心情を差し図るに易くありません。
タツキさんの言葉はまるで、当時の寂しかった自分を励ましているようでもあり、親に顧られる事無く育ったハクトさんを守り救うものでもあります。
世の中に要らない子なんていない。
誰からも認められなかった当時の自分やハクトさんを安心させるようにタツキさんは力強く頼もしくワタクシにそう告げるのでした。