恋愛の神様

     草賀零於


※※※reo kusaga※※※



野山を妹の部屋に押し込めた俺は徐に階段を下りた。

キッチンで音がして、買い物の品を片付けているオフクロの姿にほんのちょっとホッとしてしまう。


「よ。」

「久しぶりね。来るなら来るで前もって連絡して頂戴よ。」


顔を上げたオフクロは、りりしい眉を跳ね上げた。

目じりの皺が最近気になるというオフクロは、男まさりに仕事をこなすバリバリのキャリアウーマンだ。
ベリーショートの髪と凛とした立ち振る舞いで実際の大きさの二倍増しで尊大に見える。


「ああ。悪い。……ところで親父は?」

「ああ。アノヒトなら書斎でしょ。締め切りが迫ってるから。」


言ってからちょっとだけ意地悪そうな眼で俺を覗きこむ。


「でも今夜はアンタと呑めるってソワソワしてんだから、逃げんじゃないわよ?」


俺は明言を避け、肩を竦めて見せた。

そこへ「タダイマ」と声がして巳紅がキッチンに顔を覗かせた。


「ハン?兄貴帰ってたの。」


他人に言わせると俺とそっくりな面差しの美人。
身長も170のモデル並み。
猫みたいな大きな吊り上がり気味の双眸が唯一俺達のイメージを変えているパーツのようだ。
性格は―――昔っからそっくりだって言われるが、絶対俺よりコイツの方が猛々しいぞ。

久しぶりに対面した兄に向って『お帰りなさい』の一言くらい何故、言えんか。

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