恋愛の神様

当の本人である野山を見ると、我関せずと言った感じで仕事をサクサクこなしている。

俺に気付いてその頬が少しだけ赤くなる。
素知らぬふりを装ってPCに向き直り、思い出したように俺に向かって小さく頭を下げた。

それもどーよって反応に俺は小さく噴き出し、中へ踏み込んだ。


「部長探しましたよ。仕事に戻って下さい。」


みんなアンタのハンコ待ちなんだよ。
本日は俺が一番手だったから捕獲役に抜擢された。

唸るクマを問答無用で引き摺ってゆく。


「檻にでも入れておけよ。」


背中に投げられた馬場課長の文句には肩を竦める意外に出来ない。

そんな事が出来るならとっくにやってますっての。






「いい加減諦めたどうですか?」


課に戻る途中、未だブチブチ文句を言っている部長の気を静めるべく通りがかった喫煙スペースで一服に付き合う。

実際、部長はデキル人ではあるが、書類とかメンドーなデスクワークは大っキライだ。

直ぐに丸投げするならまだいい方で、平気で見切って書類のないプレゼンなんて事も過去にはあった。

だから野山みたいなのを補佐に付けて雑用を一手に担ってくれれば周囲としても大変好都合ではあるが。


「確かに野山の能力は買いますけど、所詮事務要員。営業として引っ張り込むにはどうなんでしょうかね。」


表情は寧ろ豊かな方だが、時と場合に応じて媚びたり笑顔を維持したり、なんて器用な事には向いてない。

野山を必要とするのはあくまで部長個人であって営業課ではないのだ。




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