恋愛の神様

       犬飼亜子


※※※ako inukai※※※



午後の就業になって、デスクに着いた私は自分専用のパソコンを立ち上げ、微苦笑を浮かべた。

メールを確認すると、仕事の物と一緒にNONAMEで綴られた一件。


【最近、会えねーな。】


そっけない一文。

だけど、それが言外でチクリと私を刺す非難の言葉である事を私は知っている。

敏い子だから、会わないのが偶然ではなく私の意志だというのを知っているんでしょう?

溜息を吐いて、そっと胸元をブラウスの上からなぞる。


ゴメンね、レオ。
でも、今は会えないもの。


指がなぞる肌には、数日前、カレが刻んだ熱い夜の印が残っている。

会わない事でもう分かっている筈。
だけど、見たらきっと怒るのよね?

何より。

この痕が残る間、私は誰にも触られたくないんだわ。


ささやかな私の勲章。カレに愛されているのだという証。

こんな小さな『物』に私は囚われる。
縋りつく。

自嘲めいた溜息でメールを閉じて、仕事に取り掛かる。

秘書課に常在するのは五人。
個人秘書が休みの場合や人手が足りない時に臨時で借り出されるが、今日はみんないる。

忙しなくパソコンを打つだけの部屋のドアが開いたのはそんな折だった。

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