あなたの子どもを抱く日まで
狭いエレベーターで七階に上がると、片付けを終えた中年の方の男が待っていた。


人間工学に基づいて作られたという大きなドイツブランドのチェアを見て、自分も昔、作家を目指していたと言った。


なぜ、みんな過去を語りたがるのだろうか。過去を語ることは、今を否定することなのに。


玄関で中年の方の男を見送り、ガチャンと鍵を閉めた。


山積みになった段ボールの先に、部屋で唯一の窓がある。私はまっすぐ、ベランダへ向かった。


新生活が、はじまるのだ。
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