あなたの子どもを抱く日まで

ベランダからの景色

小さなベランダにでると、巨大なビルが空に伸びる都会の景色が一望できた。


横浜の家を昼過ぎに出てから、あっという間に夕暮れが訪れている。


11月に入り、日もすっかり短くなったのだ。


息を吸い込み、右手を見ると、特大サイズの東京タワーがそびえ立っている。


いつも遠くから眺めていたもの。眩しそうにタワーを見る男の隣で。


高く、美しく、憂いを備えたタワーは、どれだけの女たちを魅了し、どれだけの傷ついた女たちを慰めてきたのだろうか。


「東京タワーの下に、行きたい医局があるんだ」


その医局に彼が在籍していると知ったのは、さくらが横浜のマンションに遊びに来たときだった。


この世界で唯一、彼と私がつき合っていたことを証明できる人間。


体を壊してファッション雑誌の編集者から医療専門誌へと移ったさくらが、偶然にも記事で見たというのだ。あの男を。
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