君と奏でるノクターン
「このピアノは常連で弾いてるビアンカでさえ、手を焼いて誤魔化し誤魔化し弾いてるピアノだ。調律しても、直ぐいかれちまうオンボロだ。それを初めてで『木枯し』を完璧に弾いておいて、周桜宗月も何もあったもんかよ」


「それくらい……あの人は簡単にやってのけるし、もっと凄い演奏をする。それに、この程度の曲で、指が震えたりしない」


「周桜宗月はな。20年以上、第1線で活躍しているピアニストだ。お前はまだ、ピアニストの卵なんだ。お前は、まだまだこれからだ。発展途上で敵わないなんて言うなよ」


「でも……どこにいても何を弾いても『周桜Jr.』と……」


「あーっあ!! 喧しい。この歓声をよく聞けよ。客の顔を見てみろよ。少なくとも、さっきの『木枯し』は此処にいる客の心を掴んでる。誰もお前を『周桜Jr.』なんて呼ばねえよ」


詩月の頬に一筋、涙が流れた。

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