ROSE         ウィーン×横浜
詩月のピアノの音が、心地好く響く。

詩月はピアノのレッスンの帰り、調律をしていないピアノを再び弾きに立ち寄った。


先日、自分の弾いた父「周桜宗月」への果たし状。

超絶技巧の連続のような曲を思い出し、何を躍起になっているんだと思いながら。


「この間の演奏とは別人だな」

グラスをコトリ、カウンターに置きながらマスターが言う。

誰に言うとでもなくポツリと。


「だけど、この曲……」


ミヒャエルはテーブルから、空になった食器を引き上げ、ちらとピアノに目を向ける。


「先日の演奏より、ずっといい」


「そうだな。肩の力が抜けたな」


「悲愴な顔をして弾いていたんだ……ずっと。触れれば切れるナイフみたいに」

ミヒャエルは詩月の表情を見つめる。


「こんな優しい顔もするんだな」

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