君と奏でるノクターン
戸惑いながら、返事をした詩月のスマホの着信音が鳴る。


詩月は「あっ……すみません」と呟き、慌てて相手を確かめ、音量を消す。


「出なくていいのか?」


「音合わせ中ですから」

詩月は毅然としてこたえる。


「アンコールを……君にやろう。1曲弾きなさい」


「……何故」

小さく頼りない吐息のような問いかけ。
詩月の目が、宗月を真っ直ぐ見つめる。


「何故? 理由などないが……君のピアノを聴きたい」


「……それは、命令?」


「そう思うなら」


「……わかった」


「では、本番まで自由に」

詩月は仏頂面で頭を下げる。


表情を露にした詩月が、舞台袖を通り、出口の扉を荒々しく足で蹴り開ける。


「詩月!?」


――ふざけるな

ポツリ呟き、ヴァイオリンケースを抱えて、扉脇のソファーにドカリと座る。


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