君と奏でるノクターン
――共演を断らなくて良かった

胸の奥底まで染み渡るピアノの音色を聴きながら思う。
ヴァイオリンを奏でながら、改めて周桜宗月の偉大さを感じる。

全てを包みこむピアノの音色が、詩月の胸につかえていたものを一掃していく。

――今ほど、誰かと音を重ねて良かったと感じたことはない。
今ほど、音を重ねたいと感じたことはない

詩月は、倒れないようにしっかりと、爪先に力を入れて踏ん張る。

熱に冒され詩月には、目が霞み客席もろくに見えない。

耳だけが辛うじて、宗月のピアノと自分のヴァイオリンの音を聴いている。

――まだ、倒れるわけにはいかない。
今、倒れてはいけない


詩月は体力の限界を感じながら、気力だけで演奏をする。


――この1曲は、何としても弾き通す


詩月の冴え渡るヴァイオリンの音色を、宗月のピアノ、高音の鐘の音が包む。

< 173 / 249 >

この作品をシェア

pagetop