君と奏でるノクターン
舞台袖。

宗月が詩月に確認する。


「弾けるか?」


「……はい」

詩月の疲れ切った掠れ声。
詩月はヴァイオリンを、宗月に手渡す。

宗月は詩月のヴァイオリンをしっかりと受け取る。

アンコールの声が更に大きくなる。

詩月は、真っ暗な舞台に向かって歩き出す。

ピアノへ向かう詩月をライトが照らし、舞台の照明が明々と灯る。

客席から、ざわめきとどよめきが起こる。


「宗月ではないのか」

「何故、ヴァイオリニストが」

詩月がピアノの前で、ピタリと止まり1礼すると、ざわめきは更に増す。

詩月は平然と、ざわめきを気にする様子もなく、席に着く。

宗月は舞台袖、真剣な眼差しで詩月を見守る。

ハインツは宗月の側に寄り添い、「大丈夫だ」と肩を軽く叩く。

ざわめきの中。
詩月は静かに、ピアノを奏で始める。

穏やかで落ち着いた演奏。
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