君と奏でるノクターン
「ミヒャエル、マスターがてんてこ舞いしている。演奏は任せろ」

ミヒャエルに耳打ちした詩月。

ミヒャエルは我に返ったように、店内を見回す。


「ったく、何をトロトロして……」

ミヒャエルは言いながら、詩月のヴァイオリン『シレーナ』を詩月に押し付けるように手渡す。


「お前と演奏してると時間も周りの様子も忘れて、ずっと弾いていたくなる」

ミヒャエルは鼻の下を指で擦り、目を輝かせる。


「『シレーナ』はどうだった?」


「凄い音だが、そいつはお前でなければ最高に歌わせてやれない楽器だ。俺には弾きこなせない」

詩月は首を傾げて、「そうなのか?」って顔をする。

ミヒャエルは「全く自分の才能に気づいていない」と思いながら、カウンターに向かう。


「ミヒャエル、そいつを席に頼む」

マスターが、やっと仕事に戻ったなとポツリ言う。
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