君と奏でるノクターン
あの曲をピアノで……と思うと、郁子は不安でたまらない。

どれほど練習すれば、あのヴァイオリンに遜色なく弾けるのか?
どう弾けば、あれほど感性豊かに弾けるのか?


課題が多すぎる、郁子はスマホを握ったまま項垂れる。


「また、溜め息かい?」


マスターが、郁子に声をかける。


「マスター、周桜くんから難題を出されてしまって」


「難題、嬉しい難題だろう?口元は緩んでる」


言いながらコトリ、カップを置く。


「試作品なんだけど……」

「わあ~、かわいい」


笑った顔の雪だるまが描かれたカフェラテに、気持ちが和む。


どこかマスターの顔に似ている、郁子は思う。


「ラテアートの講習を受けてきたんだよ」


マスターが、照れたように笑いながら口にする。


「彼はできないことをやれとは言わないよ。引き上げてくれる相手がいるっていいよね」


< 39 / 249 >

この作品をシェア

pagetop