シンデレラの落とし物
「さっきみたいなやり方で、観光客の男性からお財布やパスポートをすって生活している、ジプシーの子達だと思います」

ジプシーとは、何らかの理由で身寄りのない子供たちのことだ。

「男を狙う?」

「そう。いきなり外国の女の子に囲まれたら何にもできないでしょ?」

「うん……確かに何にもできなかった。オレ、マジでやばかったんだ」

美雪の説明を聞きながら、石だたみの上に転がったままのミュールを拾いあげる。

「美雪ちゃん現地の人? 詳しいね」

「わたしも観光です。ただ、以前ここに来たときに、同じことがあったから……」

そのときのことを思い出して切なくなる。
小さなお土産屋、先にお店を出て待っていた彼の姿が見えなくなって……あのときはお財布取られちゃって大変だった。

「なるほど。はい、どうぞ」

秋の声に過去から引き戻される。我に返ると秋が足元で片方の膝を地面につけて、美雪が履きやすいようにミュールを置いてくれていた。眩しいくらいの笑顔で、美雪がミュールを履くのを待っている姿は、まるで王子さまだ。

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