シンデレラの落とし物
走ったわけでもないのに、息が乱れる。感情が暴走してコントロールできなくなっていた。苦しげに表情を歪ませる美雪に、先に自分を取り戻した秋が落ち着いて問いかける。

「それは美雪の言い分だろ? 置いてかれたオレの気持ちはどうなんだ?」

「そんなの……分からないよ。秋くんの気持ちなんて分かるはずないじゃない! わたしは気持ちを整理するためにイタリアへ来たのに」

あれだけ散々泣いたのに、感情が高まったせいで涙が滲む。視界がぼやけてきた。

「秋くんにどんどん気持ち引き寄せられて」

目から涙が溢れて頬を伝う。

「裏切ったような後ろめたい気持ちになって。それでも気持ち止まらなくて……100%不可能な相手を好きになるのが苦しかった! 1分1秒でもそばにいることが嬉しくて辛かった……だからっ!!」

時折しゃくりあげ、自分の気持ちを必死に訴える美雪。
全身で叫ぶ彼女に、愛しさが込み上げる。秋は美雪を抱き寄せ、うなじを掴んで上向かせると唇を奪った。
重なるぬくもりのある柔らかな唇。
心から求めていた秋が、わたしに触れている。失ったまま、求めても見つかることはないと思っていた最後のピース。秋が美雪の足りなかった部分を満たしていく。
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