シンデレラの落とし物
口内を探るように動く秋の舌が、美雪の舌を探しあて絡み合う。

「……っ」

刺激的に動く舌に、美雪の呼吸も次第に乱れていった。

暖簾の向こうでは、店員が忙しく行き来している。その足音や、食器のぶつかる音、どこからか酔っ払いのご機嫌な声も聞こえてくるのに、ここでは予想もしなかった事が起きている。いつ店員が食器を下げにくるか分からない状態なのに、その緊張感が快感をより一層引き立たせた。

淫らにうごめく舌のせいで、頭が働かなくなっていく。アルコールのせいではないなにかが体を熱くする。気づくと美雪も深いキスを返していた。

ふたりの吐息が混ざり合う。
何秒、何分続いたのか分からないキス。
やがて離れることを惜しむようにゆっくりと唇が離れた。
薄暗い照明に、濡れた唇が光る。情熱を交わした証に唇はふっくらと腫れていた。

「………」

乱れた息。ふたりの視線が交差する。
愛しげに頬を撫でる秋の大きな手のひらに、美雪は頬を預けて甘えた。

「ごめん……最初はおでこに触れるだけのつもりだったのに、止まらなかった」

謝る必要なんてないのに。
美雪は首を振った。
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