シンデレラの落とし物
「でよう」

掴んでいた美雪の手を握り直した秋は、会計時の僅かな時間離しただけで、そのあとは手を繋ぐことが当たり前のように指を絡め合わせていた。
きっとどこから見てもふたりは恋人同士に見える、恋人つなぎ。

店を出て夜気に触れると体を熱くしていた熱が収まって、気持ちも落ち着いてきた。
秋くんと、まさかあんなキスをしてしまうなんて信じられない。
秋くんはどういうつもりでキスしたの?
勢い?
ドラマで競演する相手役にするみたいに、雰囲気でキスしたの……?
怖くて聞けない。

手を繋いで少し先を行く秋の後ろ姿に、美雪の心は切なくなる。

この人はわたしの心を惑わす憎い人。
わたしの全てを受け入れてくれた懐の広い人でもある。
そして、わたしの……大好きな人。

このまま離れたくないーーー。

絡めた指が離れないよう、しっかりと握った。
切ない想いに揺れる美雪を、居酒屋を出る前にサングラスをかけていた秋が振り返った。

「かなり遅くなったけど、ほんとうに大丈夫か?」

サングラスの上から覗く眉がひそめられ、心から心配しているようだ。
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