シンデレラの落とし物
シャツの胸から顔を離し、秋との間に僅かな距離を作る。すると、先ほどまで背中を撫でていた秋がその手を止め、心配そうに美雪をのぞきこんだ。
なにか伝えようとしている美雪に、秋は口を挟まず待った。

「秋くん、わたし……」

寄せ集めの勇気が、どこかへ飛んで逃げてしまった。自信がなくなった美雪はまぶたを落とす。

「わたし……」

誰かに喉を締め付けられているかのように、声がでなくなる。

「美雪?」

優しい声が、体を包む秋のぬくもりが、美雪の背中を押す。美雪は思いきって顔を上げた。

「あなたが好き」

爪先立って長身の秋の首に手を回し、お互いの体を密着させる。近付いた唇に、美雪のほうからキスをした。
積極的に唇を押し付ける美雪の行動に、一瞬戸惑った秋は反射的に体を強ばらせるものの、すぐその腕を美雪の腰に絡み付けた。
美雪からの告白によって、秋のなかで抑えていた熱が解き放たれる。

いまこの瞬間、美雪は秋の、秋は美雪だけのもの。
やがてふたりは、溶けるようにひとつになった。
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