君色-それぞれの翼-

いつも静かなバスの中。
絶対こういう場所で生活は出来ないな、と思いながら、いつの間にか眠ってしまう。
ブルルル…
鞄の震えで目が覚める。
バイブレーダの音さえ、煩い。
あたしは急いでケータイを出し、確認をした。
(郁那…)
着ていたのは郁那からのメール。"明日の球技大会、集合場所まで一緒に行こ"
あたしは固まった。
そして急いで返信する。
"球技大会って、明日なの?"
しばらくして、またケータイが震えた。
"HRで先生言ってたじゃん!!"
聞いてなかった。
あたしは鞄からクリアファイルを引っ張り出し、ガサガサとプリント類を漁った。
「……あった…」
バスの中でこんなに動いたのは初めてだな、と思いながら手に取ったプリントを端から読む。



日程 4月28日
場所 山中公園体育館
競技 ドッジボール
集合場所 緑公園




ご丁寧に地図まで描かれたプリントは、シワだらけになっていた。

"大丈夫!!じゃ、駅で待ってるね。"
そう急いで返信し、溜め息を吐いた。
最近、ボーッとしている気がする。
行事の日程を忘れるなど、有り得ない。
おそらく原因である戸谷君はずっと外を見ている。


寂しい。


中学生になって、こんなにも話せなくなるとは思わなかった。
こんなに緊張するとは思わなかった。


悲しい。



いつもいつも、泣きそうになる。
好きな人を想って泣きそうになる。
何で……何で…………
塾で勇気を出して話しかけても、笑顔を見る事が出来るのは、ほんの一瞬。
ついこの間まではあんなに近くにいたのに。
笑顔が溢れていたのに…



少しずつ





距離が出来ている…。






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