君色-それぞれの翼-


入って来たのは男子。靴のラインを見ると、同級生の様だ。
彼はズカズカと中に入ってくると、あたし達を見下ろした。
「…なんでしょ?」
あたしが聞きたい事を、南が見上げながら聞いてくれた。
すると彼は無言でマジックを一本、物凄い早さで手に取った。
「これ、借りてくわ。」
そしてまたズカズカと出て行く。あたしが息を吐くと、彼は再びズカズカと入ってきた。
「ちょっと見して。」
そう言って次はメンバーが書いてある紙を奪い取る。
あたしは唖然としたまま何も言わなかった。
いや、言えなかった。
「ふーん、まぁまぁのグループなんじゃない。」
そしてまたズカズカと出て行く。
あたしだけでなく、郁那も南も唖然としていた。
「…何、今の」
「…さぁ…」
奴がいなくなっても、しばらくは声が出なかった。

結局、作業が終わったのは5時半。バスの時間まであと10分しか無かった。
「じゃ、ばいばい!」
「ん、手伝いありがと。」
「ばいばーい」
後片付けは二人に任せ、あたしは教室を飛び出した。





バス停に行くと、既に扉が開いていて、バス通学の人は皆乗り込んでいた。
静かな車内では、階段を上がる僅かな音もよく響く。
高校生の側を通り、戸谷君の斜め前に腰をおろした。
戸谷君と話せない原因はバスの環境にもあった。
静かな上、乗客の殆どは高校生。実際はとても話が出来る状況では無い。
毎日がそうだった。
ただ窓に映る戸谷君の姿を見ているだけ。

マジックのインクがついた手を見つめ、あたしは溜め息を吐いた。
扉が閉まると、バスは揺れながらもゆっくり、目的地に向かって行った。






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