終電
ツイてない日
毎日毎日、早朝から深夜まで仕事に追われ、確かに最近、疲れが貯まっているのは感じていた。


上司からは無茶苦茶なノルマを命令されるし、取引先にはペコペコし、そのくせ、契約が取れるのはわずかである。

その上、せっかく口説き落とした彼女からは、会えない事を理由に別れを切り出された。

しかも、憂さ晴らしに寄った立ち飲み屋で、どこかのオヤジの口上をムカつきながら聞かされる羽目となり、気が付けば終電迫る時間にあわてふためく。

当然、しこたま酒を飲んでしまったので、無謀にもホーム目掛けて走り込んではみたものの、急に酔いが回りヘナヘナとベンチに座り込んでしまう始末だ。

まあ、終電まで、多少余裕があった為、待ち時間で落ち着かせようと思っただけである。

余程、疲れていたとしか思えない。

そう、落ち着かせようと思っていただけなのに…いつの間にか眠り込んでいたらしい…。

辺りは薄暗く、人気のない事に気がついた。

完全に終電に乗り遅れてしまったらしい。

しかも、常夜灯以外の電気はすべて落とされているらしく、ホームの売店の自動販売機がやけに明るい。

その光りに吸い寄せられるように歩き出す。

ガッコン。

喉がやたら渇いていたので、勢いよく冷えた缶コーヒーを飲み干した。

「普通は駅員が声をかけるもんだろう。」

とりあえず、改札を出るついでに、駅員がまだ残っていたら、文句の一つでも言ってやろう思った。

給料日までの赤字を覚悟で、タクシーを捕まえなくてはと、空缶をゴミ箱に押し込み、重い腰を上げた。

「?!」

突然、辺りが明るくなった。

いつの間にいたのか、すぐ横にぼーっと、駅員が立っていた。

陰気で嫌な感じがする。

しかも、構内アナウンスもボソボソしゃべっているので、異様に聞きにくい。

どうやら、臨時の最終電車が出るらしい。

それは有り難かった。

ヤレヤレと白線近くまで歩き出す。

「うぉ?!」

今度は声を上げそうになった。

ホームには、自分以外の乗客が数十人待っていたのだ。

「コイツら、いつの間に来たんだ?!」

そんな事を考えている間もなく、ホームに静かに電車が滑り込んできた。

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