君だけに、そっとI love you.
──赤い鼻緒が付いた草履、履き慣れていないから足の指の間が少し腫れて痛い。
坂口くん、来なかったらどうしよう……。
手で持っている巾着をぶらぶらと揺らしながら不安で地面ばっかりをぼっーと見つめている掬恵。
8時15分4秒が過ぎた頃、下駄のカランコロンという音が掬恵に近づいてくる。
俯いたままの掬恵の目に男物の落ち着いた灰色の浴衣の裾が目に入る。
「可愛いね。ねぇ、一人?」
低い男の人の声。
──もしかして、ナンパ!?
顔を全く上げない掬恵。
面識のない軽そうな男の人は絶対に受け入れられない。
「すみません。……待ち合わせをしている人がいるんです」
速攻、お断りをする。
「そうなんだー。残念。せっかく可愛い人を見つけたから、僕と一緒に映画でもって、思ったんだけど──」