君だけに、そっとI love you.
下山をしていく後輩の高谷さんの分まで山頂に向かって頑張ると意を決めた掬惠の瞳の奥にぐっと強い力が入る。
しかし、あれから、傾斜が少しずつきつくなり、しばらく石ころばかりで砂利道の足場の悪い上り道ばかりが続いき、もうだめかもという弱音が口から思わず何度も飛び出そうになった菊恵。
掬惠の額から顎の先に向かって汗が流れては落ちていく。
──頂上はいったいどこなの、歩いても歩いても、たどり着かない山頂。
私の前へ出す一歩は、本当に前に前に進んでいるの……。
山頂までの距離を知るのが恐くて、地面ばかりを見続けて歩いている掬恵。
周翼が荒く息を切らしながら途切れ途切れになった声で、掬惠に声をかける。
「吉井さん、顔を上げて、やっと山頂だよ……」
「えっ、うそ……」真後ろから聞こえてきた周翼の声に掬惠が反応をして顔を上げた。