明日はきらめく星になっても
元旦……毎年届く、かつての教え子達からの年賀状。
定年で教師をやめて二十年。最後の年に教えた子供達は、今が丁度、結婚適齢期くらいなのだがーー。
「だからか?… 赤ん坊の写真が多いのは…」
本人は写っておらず、子供達だけが写っておる。
(この最近の流行なのか…?)

年をとると頭が固くなって、どうもこの流行と言うものについていけない。
しかしながら、どんな賀状であっても、一筆したためるのは私の流儀。

「…お義父さんは、本当に字がお上手ですね…」
総子さんは最近、とんと褒め上手になった。
「いやいや、そんな事はないよ。昔に比べると手も震えるし、うまく書けん」
「そんな事ありませんよ!今でも変わらずお上手です!」
力強く言われた。
彼女は、私が『ほのぼの園』に通いだしてから、自分の自由な時間が増えたことが、余程嬉しいらしい。
以前よりも気を遣ってくれるようになったし、何かと優しくしてくれる。
(総子さんの為にも、元気でいなければな…)
この年になると、生きるというのは自分の為でなく、家族や周りの人達の為という気がしてくる。
…そうなると、なかなかどうして、簡単には死にきれない。
「…うまい具合になってるもんだな…」
こんな年寄りでも生きてる限り、誰かの役に立つように、世の中はなっているらしいのだ。


久しぶりに孫やひ孫と共に過ごした休暇は、あっという間に終わりを告げ、またいつもの日常が戻ってきた。
『ほのぼの園』では、これまた一つ、面白い事が起きていた…。

「松田さん、前島さんは何かあったのかね?」
私の問いかけに振り返った彼女は、動きを見て吹き出した。
「…そう言えば、山に登ったから筋肉痛で足腰が痛いと言ってましたね…」
腰を押さえながら、立ったり座ったりしておる。それを見て思い出したらしい。
「山……登山かね⁉︎ 」
「ええ。あまり高くない山らしいんですが……それがどうかしましたか?」
「いや…どうも変な気がしてね…」

一見、いつもと変わりないようなんだが、ほらっ、今みたいにふと気が抜けた瞬間、ぼんやりしておる。
(…これは、ただの筋肉痛による身体の痛みとは、関係ない気がするんだが…)
多分、何かあったに違いない。本人に確かめてみなければ。

「前島さん、また彼氏とケンカした?」
「あっ、いえ、私、そんな人いませんから」
あっさり否定されたか…。
(こりゃ今回は深刻だな…)
何があったかは知らないが、一言言っておいた方が良さそうだ。
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