むとうさん
「おっ常連さん揃ったね!今週むとうさん好きそうなウィスキー入れたんだよ〜。」

むとうさんは私の右隣に座った。やった。きてくれた。小さな喜びのかけらがちらちらと体の中で舞っている。

「なんかお久しぶりです。」
「そうか?いつも通りだろ。」

いつも通り、むとうさんも私とspaceで飲むことを習慣としてくれている。猛獣が気づいたら懐いてくれていたような幸せだ。

柏木さんオススメのウィスキーをむとうさんと一緒にロックで飲む。まん丸の氷が会話に合わせてゆっくりじわじわと溶けていく。

「むとうさんって地元どこだったんですか?」
「県央のほうだな。」
「中学の時よくあの辺に部活の試合でいってましたよ。どこ中ですか?」
「俺、中高一貫だったから東京だよ。」
「えっ私立?中学受験したんですか?すごい、お家お金持ちでしっかりされてるんですね。」
「しっかりねぇ。俺は大変だったぜ。」

大変?今だから中学受験がメジャーになったけど、私達の時代で中学が私立なんて経済的な余裕があって、ちゃんと教育について考えてる家だ。

それからむとうさんは少しずつ、昔話をしてくれた。
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