むとうさん
父は部品工場で働いていて、工場長になった。母はその工場の家の娘だった。

父は私が幼いころはがっしりとした骨格で、とても丈夫な歯が自慢で、今まで虫歯を作ったことがないという。

しかしそんな父も去年から腰をいためている。相変わらず笑う時は大きく口を開けてがはがはと自慢の歯をむきだして笑っているが。

「慶子、どうだ仕事は。上司は嫌なやつじゃないだろうな。」

半年ぶりに会う父は、少し白髪が増えたかもしれない。

父はよく飲み歩いてはいたが、私と母をとても大切にしてくれた。

「嫌なやつじゃないよ、最近仕事楽しいの。」
「ははは。それはよかった。でも慶子は母さんににて我慢しいだからな、できないことは、できないって言っていいんだから。」

実家に帰るとやはりほっとする。ブーツで硬くなった脚を少し揉み解しながら、3人でこたつでお茶をする。

「ちゃんとご飯食べてるの?お酒ばかり飲んでちゃダメよ。」
「たべてるよ。最近はよく自炊するの。」
「おつまみばかりじゃないでしょうね。」
「もー、毎晩は飲んでないから大丈夫。」
母は静かでしっかりしている。2人は本当に素敵な夫婦だと思う。
< 82 / 113 >

この作品をシェア

pagetop