【短編】地味男の告白を断ったらS系俺様になって迫られました
それを見て春花も膝の上でお弁当を広げる。
とにかく食べるものを食べて早急に教室に戻ろうと思った。
黙々とそれぞれのお弁当を食べる自分と里桜。
春花としてはそれで良かったのだが、強引に連れてきておいて何がしたいのかと疑問に思う。
(まさか本当に一緒に食べるだけ?)
話もせずに、ただ黙々とお弁当を食べて終わりなのだろうか。
流石に何がしたいんだと疑問に思った春花は、ウインナーをくわえながらチラリと里桜を見た。
丁度その時、一陣の風が吹く。
里桜の背景のしだれ柳がザワザワと葉擦れで合唱している。
その手前では、風に向かって気持ちよさそうに目を細める里桜。
少し長めの髪が風に流されて、踊っている様。
しだれ柳の合唱と相まって、その空間だけが切り取られたかのような不思議な感覚を得た。
風が止み、合唱が内緒話になると春花はハッとして里桜から視線を外す。
(今、見とれてた?)
そんなはずはない。
そう思いたかった。
だが、しだれ柳の合唱が耳に残る。
その音と共に、里桜の横顔が頭に刻み込まれたかのようだ。
何より、胸の奥で音を刻むものがいつもより早くなっている気がした。
まさかまさかだ。あり得ない。
そう思い自分の心を誤魔化すように春花は残りのお弁当を食べた。